こんにちは、かじです。
今回は膝のお皿(正式には、膝蓋骨=「しつがいこつ」と呼びます)のケガについてお話しします。
ヒビと骨折の違いや手術になる場合の見分け方も説明していきます。最後には治療期間を短くする秘訣を書いているので、ぜひ参考にしてください。
それでは、早速始めていきましょう。
目次
膝のお皿が割れた2名の選手
2年前の夏、私のサポートしていたサッカー部の大学生K君とA君が同じ日に膝のケガをしてしまいました。
すぐに病院に行ってレントゲンを撮ったところ、2人とも左膝のお皿(膝蓋骨)を骨折していました。
しかし、K君は手術をしなかったのに、A君は手術が必要という結果になりました。同じお皿の骨折だったのに、なぜ2人の治療には違いがあったのでしょうか。
膝蓋骨のヒビと骨折の違いとは
「ヒビ」と「骨折」、一般的にはヒビは骨折の手前といった使われ方をしていますが、本当は少し違います。
では、この2つのケガの違いはいったい何でしょうか?
実は、私達ドクターは「ヒビ」という言葉を使いません。もっと正確に言うと、レントゲンなどの検査結果を見て、私達は骨折があるかないかだけを判断します。
つまり、一般的に言われる「ヒビ」も骨折の一種で、ズレていない骨折のことです(※ヒビ=不全骨折と呼ぶこともあります。)。
そして、骨は骨折しても骨折した面同士がくっついていれば自然とくっついてくるので、「ヒビ」は手術しなくても治る事がほとんどです。
勘のいいあなたはもう気付いたかもしれませんが、今回の場合はK君がヒビ(不全骨折)で、A君がズレた骨折でした。
それに加えて、K君が手術をせずに済んだ理由が実はもう一つあります。それをこれから説明していきます。
ここからは少しだけ専門的な話になるので、時間の無い方は飛ばして下さい。
膝蓋骨が割れる2つのタイプ
膝のお皿の骨折は次の3つの種類の分かれます。
- 縦骨折
- 横骨折
- 粉砕骨折(バラバラになる骨折)
このうち、今回は上の2つの骨折についてお話しします。この2種類の骨折はその名の通り骨の割れる方向で分けられます。
上の図は膝蓋骨とその周囲にある靭帯や腱を示した図です。この図で分かるように、膝蓋骨は上下に引っ張られる骨であり、左右には動きにくくなっています。
したがって、図のように縦に割れている骨折は上下に引っ張られてもズレにくいことが分かります。そのため、手術にならないことがほとんどです。
それとは対照的にA君の骨折は横割れです。この方向に骨折すると膝蓋骨は上下に引っ張られてズレやすくなってしまいます。そして、骨折部がズレたら100%手術が必要となります。
そういった理由もあり、K君は骨折していても歩いて病院に来たのに対して、A君は自分で歩く事はできずにチームメイトの肩を借りて逆足でケンケンして来たのです。
2人の骨折の違いはお話しましたが、それでは完治までにかかる治療期間に違いはあるのでしょうか?
普通に考えると、治療期間はK君>A君と考えそうですが、果たしてどうなのでしょう。その辺りの解説を次の章でしていきましょう。
膝蓋骨骨折で治療期間はどのくらい?完治までのリハビリを解説
一般的に、骨折が完治するまでの期間は、成人で2-3ヶ月です。ただし、成人になる前は若ければ若いほど骨折の回復は早くなります。ほぼ1ヶ月で完治した小学生も見たことがあります。
また、骨折に関して意外と知られていない事実をお話ししておかなくてはなりません。
それは、骨が治癒する時には骨折した面と面がくっ付いていれば骨同士はくっつくが、離れているとどれだけ待ってもくっつく事はない、というものです。
これが何を意味するかというと、
- 自然とくっついてくる場合は手術をする必要はなく
- 時間をかけても治らない場合は手術が必要
ということです。
つまり、K君はヒビ(不全骨折)だったので、骨折した骨同士にズレはなく手術は必要なかったのに対して、A君は骨折部がズレていたのでいくら待っても骨はくっつかないと考えて手術に踏み切りました。
という事は、手術とは、
・人工的にズレた骨折をヒビに近い状態にしてあげる事
になります。
ですから、手術でしっかりと固定できた場合は、元々ヒビであったものと治療期間は変わりません。むしろ、強力に固定されているので手術した方が早く治るかもしれません。
話は変わって、ここからはスポーツ選手に特に大切な考え方ですが、ケガの完治とスポーツ復帰の時期とは考え方が全く違うのを覚えておいてください。
骨折部が完治してからトレーニングを始めたのでは遅く、ケガをしていない所はむしろ積極的にトレーニングをし、ケガが治ったらできるだけ早く復帰する為の準備をしなくてはなりません。
これに関してはスポーツ復帰を早めるキモなので、また別の機会に詳しく解説します。
膝蓋骨骨折で入院期間は手術後にどのくらい必要か
膝のお皿の骨折で手術が成功すると、手術翌日には歩いてもいいですし、動きの制限は無くなります。
つまり、曲げ伸ばしをしても良いし、体重をかけてもよいという事になります。
入院期間について考える時は、そもそも、なぜ入院するのかという事を考えれば分かりやすいです。なぜ入院するかというと、自宅での生活に困っているからですよね。
例えば、
- 足を骨折して歩けない
- 点滴をずっとしている必要がある
- もしもの時は素早い対応が必要である
など、病院にいないと体に害があると考えられる場合に入院するのです。
ですから、いくら手術後だと言っても、ドンドン歩いていいよと言われている患者さんは早めに退院できるよね、となるのが自然の考え方です。
(※さらに言うと、例えば病院が満床の場合、軽症の方から退院をお願いする場合もあります。お皿の骨折で手術した方は、その候補に挙がりやすいです。)
あともう1つ考えておかなくてはならない事は手術で切った傷についてです。
膝の手術の傷は約2週間で抜糸できますが、実はその傷と入院期間は関係ありません。抜糸する前に退院して外来に来てもらった時に抜糸する事はよくあります。
つまり、抜糸するまで入院する必要はないのです。
とは言っても、手術後に私達が最も気を付けているのは傷口からばい菌が入る事で、術後数日は最も危険な時期です。ですので、いくら早く退院できるとは言っても最低2-3日は入院してもらいたい、というのがホンネですが。
もし、傷口からばい菌が入ってしまった場合はもう1回手術が必要となる事もあるので、早めに退院できたとしても傷の管理には十分に気を付けてもらいたいところです。
膝蓋骨骨折で痛くないように完治させる為に必要な事とは
お皿の骨折は、膝の関節のケガです。
関節のケガの場合、動く範囲を元に戻す、というのがとても大切です。これができないと別の場所にムダな力がかかり、痛めてしまう事もあります。
そして、どんな関節でも2週間近く動かさないでいると硬くなってしまいます。(※これを拘縮(こうしゅく)と呼びます。)
一度硬くなった関節をもう一度元に戻すのはとても大変なので、手術後は多少痛くても関節を動かすリハビリをします。場合によっては、痛み止めを飲んででも動かした方が良い時もあるほどです。
痛いとその場所を大事にし過ぎて動かさない人も多いのが現状です。しかし、このような理由から医者が動かしていいと言ったら痛みをこらえて積極的にリハビリをした方が、結果的に治療期間が短くなる場合も多いのです。
まとめ
今回は、膝のお皿の骨折についてお話ししました。
ここからはこの記事の内容をまとめていきましょう。
- ヒビ=不全骨折であり、ズレていない骨折の事である。
お皿の骨は筋肉や靭帯で上下に引っ張られているので、
- 縦割れ ⇒ 骨折部が離れる方向に力がかからないのでズレない。
- 横割れ ⇒ 骨折部が開く方向に力がかかるのでズレやすい。
- 一般的に、骨折が完治するまでの期間は、成人で2-3ヶ月。
骨折をした場合、
- 自然とくっついてくる場合は手術をする必要はなく、
- 時間をかけても治らない場合は手術が必要。
つまり、手術とは、
- 人工的にズレた骨折をヒビに近い状態にしてあげる事。
・手術でしっかりと固定できた場合は、元々ヒビであったものと治療期間は変わらず、むしろ、強力に固定されているので手術した方が早く治る。
・膝のお皿の骨折で手術が成功すると、手術翌日には歩いてもいいし、動きの制限は無い。
・膝の手術の傷は約2週間で抜糸できるが、最低2-3日は入院してもらいたい。
・傷口からばい菌が入ってしまった場合はもう1回手術が必要となる事もある。
これらを参考にして少しでも早く完治する事を願っています。
それでは、今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。