前十字靭帯断裂の手術をすべきか迷っているAさんからの相談メール

11.282016

この記事は8分で読めます

こんにちは、スポドクKです。

今回は最近相談が多かったお問い合わせの中から、ある方のメールをピックアップしてお答えしていきます。

 

かなり力を入れて書かせて頂いたので、長文となっています。時間のない方は最後のまとめから読むと良いかもしれません。

 

では早速Aさんからのメールを見ていきましょう。

 

 

参考記事
▶スポドクKのプロフィール

 

 

相談メール内容

はじめまして。私、A(36歳 男)ともうします。

 

ネットで前十字靱帯のことを調べていたところこちらのサイトにいきつきました。わかりやすい説明や症例等みさせていただきとても参考になりました。

 

そこで現在私のおかれている症状で、手術が必要かそうでないかお聞きしたいと思い、失礼かとは思いますがメールにてご相談させていただいた次第です。

 

私のいまの症状と診断結果をお伝えいたします。

 

9月の終わりにソフトバレーをしている際、ポールに膝をぶつけてしまいました。そこで整形外科にてレントゲンとった結果、打撲で様子見とのことでした。三週間たって痛みも和らいだのでバレーをしたところ、踏ん張った瞬間に激しい痛みがきてそこでやめました。

 

再度整形外科に行き、MRIをとったところ水がたまっていてよく見えないが前十字靱帯が 切れてはいなさそうだが 6~7割損傷していて機能をはたしていなさそう。とのことでした。

 

先生は

・手術しなくても日常生活はできます。

・激しい運動をすると 軟骨 、半月板等の劣化が早まるかもしれない。(レントゲンのときからまだ若いのに膝の老化がはじまっているとの診断)

と、いわれ再度様子見ましょうとのことでした。

 

そこで 先生からアドバイス等いただければと思いメールさせていただきました。手術するべきなのか ?必要ないのか?

 

私としましては

・できればバレーは続けたい。バレーは無理でもスポーツは続けたい。

・時々膝が抜けるようなことがあるので心配

・膝の老化を防ぐためにも手術したほうがよいのではなかろうか。

と、考えています。

 

お忙しいところ 長文のメール申し訳ありません。お時間のあるときでかまいませんのでアドバイスいただけたらありがたいです。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここまで

 

 

手術をすべきか、しなくてよいかというのは、本人にとってはとても大きな問題です。このような相談はたくさん来るのですが、直接会って診察しないと正確なことは言えないというのが正直なところです。

 

そして、手術をするかしないかは微妙なラインで、あとは本人の状況次第。ということもよくあります。

 

そういった意味でも、メールのやり取りだけで答えを出すということは危険だと考えて、基本的にはアドバイスをするという形だけにさせてもらっています。しかし、こういう相談がたくさん来るという事は、悩んでいる方がたくさんいるという事なので、できる限りお力になれるようにお話ししていこうと思います。

 

 

 

前十字靭帯を断裂するとなぜ困るのか?

まずは、前十字靭帯ってどんな働きをしていて、切れてしまうとなぜ困るのかについて簡単にお話ししていきましょう。

 

前十字靭帯断裂とは、ある種目のスポーツ選手にとっては厄介な怪我です。(前十字靭帯はACL(Anterior Cruciate Ligament)と略されることがほとんどですので、これから先はACLと呼んでいきます。)

 

ACLの働きについて詳しくは他の記事で書いていますが、簡単に言うと、

  • ジャンプからの着地(特に片脚での着地)
  • 急な方向転換の動き
  • 急なストップ

これらの動きをする時に大切な働きをしているので、切れてしまうとこのような動きが素早くできなくなります。

膝前十字靭帯損傷の原因と症状とは?医者が靭帯の構造を詳しく解説

 

 

ACLが断裂しやすいスポーツベスト3は、

  • バスケットボール
  • ハンドボール
  • サッカー

です。

 

これらのスポーツでは、上で挙げた動きが多く、その動きがどれだけ素早くできるかが選手としての評価に大きく関わってきます。

 

ですので、これらのスポーツであれば、趣味として楽しみたいというレベルでも手術を進める場合が多いです。

 

Aさんの場合はバレーボールであり、上記のスポーツではありません。しかし、バレーボールでは片脚での着地もありますし、レシーブの時のフットワークも重要でしょうから、ある程度のレベルで楽しみたいのであれば手術をした方が良い、ということになります。

 

 

膝前十字靭帯損傷の原因と症状とは?医者が靭帯の構造を詳しく解説

 

 

前十字靭帯断裂で絶対に手術をすべきなたった1つの症状とは

上でお話ししたように、基本的にはACL断裂はスポーツ選手以外では手術しません。なぜなら、スポーツ以外の動きでは困らないからです。

 

しかし、スポーツ選手ではなくても手術をしなくてはならない症状がたった1つだけあります。その症状は日常生活で歩いたり階段を上ったりするだけでも起こってしまうこともあります。

 

それは、「膝崩れ」です。

 

膝崩れとは、膝がガクッと抜けるよう感じる症状のことで、膝の亜脱臼です。(亜脱臼とは、関節が脱臼しかかった後に元の位置に戻ることです。)

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

 

ACLは脛骨(すねの骨)が前にずれるのを抑えるように働いています。そのACLが切れてしまうと、脛骨が必要以上に前にずれてしまうことがよくあります。このように、脛骨が前に亜脱臼してしまうことを「膝崩れ」と呼び、まるで膝が外れたように感じるのです。

 

そして、ここからが重要なお話で、この膝崩れの時に脛骨を前にずれるのを防ぐ働きをACLの代わりに半月板が行います。(半月板に関しては別の記事で詳しく解説しています。)

膝の半月板の構造を医者が分かりやすく解説

 

 

しかし、元々膝のクッションである半月板は脛骨が前にずれるのを防ぐような構造にはなっていません。そこで、膝崩れが何回も起こると、半月板が繰り返される負担に耐え切れなくなっていき、最後には切れてしまうのです。

 

このように半月板が傷ついてしまうと、次は軟骨が傷つき、それが進むと軟骨がボロボロになって、若くしてまるで高齢者の膝のように痛くなってしまう可能性があります。

 

 

ここからは余談です。有名な話ですが、サッカー界では誰もが知っているレジェンドである、イタリアのロベルト・バッジオはワールドカップ本番の3か月前にACL断裂をしました。

 

アスリートのACL断裂の復帰は早くても6ヶ月というのが定説で、誰もが彼をワールドカップで見ることはできないと思っていました。しかし、彼は手術とリハビリを乗り越え、見事に3か月後のワールドカップに間に合わせて、チームを準優勝に導きました。

 

ここまではすばらしい美談ですが、その後、無理をした彼の膝はどうなったのでしょうか。ワールドカップでの活躍と引き換えに、膝の軟骨はボロボロとなり、引退後に40代で人工関節の手術を受けたそうです。この手術は普通、60代後半から70代で受ける手術です。

 

人工膝関節全置換術のレントゲン

人工膝関節全置換術のレントゲン

 

Aさんのメールにあった、時々膝が抜けるような感じがするというのが膝崩れであるならば、ちょっと心配な状況です。私としては、半月板が傷つかないうちに早めに手術(ACL再建術)をした方が良いと考えます。

 

それほど、膝崩れはACLの手術によって重要な症状なのです。

 

膝が壊れるはじめの一歩がACL断裂だとしたら、2次災害である半月板損傷が起きてしまうと、雪崩のように膝の崩壊は加速してしまいます。

 

そういうことも知った上で、手術をするかしないかを決めた方が良いと私は考えます。

 

 

膝の半月板の構造を医者が分かりやすく解説

 

 

前十字靭帯断裂で手術をしなくてもいい場合とは

これまでお話しした内容でどのような場合に手術をすべきかだいたい見えてきたでしょうか。ここからは、こんな場合は手術をしなくてもよいというケースについてお話ししていきます。Aさんの場合も、ある処置を行ったらもしかしたら手術をしなくてもよいかもしれません。

 

アスリートの場合は、すぐに手術をすることが多いので、ここではAさんのようなスポーツ愛好家の方限定で話をしていきます。

 

では早速本題に入りますが、手術をしなくてもよいのは、「膝崩れをしない人」だけです。ただし、これにもいくつか注意点があります。

 

というのは、「何をすると膝崩れをするのか?」というのが大切だからです。

 

膝崩れというのは、膝への負担が大きいほどしやすくなります。ですから、人によっては日常生活では膝崩れはしないが、スポーツをすると膝崩れをする、という場合もあります。

 

ということは、自分の生活の中で膝崩れが起これば手術をするしかありません。例えば、Aさんがバレーボールをした時だけ膝崩れをする、ということであれば選択肢は、

  1. 膝崩れの出にくいスポーツに変更する(もしくはスポーツはしない)
  2. バレーボール(もしくは他のスポーツ)は続けたいから手術をする

の2つとなります。

 

そして、Aさんが現在膝に適切なサポーターをしているのかは分かりませんが、もししていなければ、一度試してみることをお勧めします。膝の内側と外側に金具が入っているもので、これをすると膝崩れをしなくなる人がいるので、そうであれば手術が回避できるかもしれません。

 

ですから、ACL専用のサポーターをしても膝崩れをしてしまう人には手術が必要であると考えてもらえばよいでしょう。私もアスリート以外の方にはそのように説明していますし、結果的に全くスポーツをしない方でも日常生活で膝崩れをするので手術となる場合はあります。(私がいつも使ってもらっている装具をネット上でも見つけたので載せておきます。)

 

 

 

 

 

MRIの限界

Aさんのメールの中でこのような1文がありました。

 

>再度整形外科にいきMRIをとったところ水がたまっていてよく見えないが前十字靱帯が きれてはいなさそうだが 6~7割損傷していて機能をはたしていなさそう。とのことでした。

 

実はこのようなことはドクターサイドとしてはよくあることで、MRIの限界とも言えます。つまり、MRIだけを見ても完全に切れているのか、部分的に切れているのか、それとも少し伸びただけなのか、それは判断が難しいこともあります。

 

ただ、私たちはMRIだけで判断しているわけではないので、膝を診察してACLが正常に働いていないと判断したら手術を勧めることがあります。

 

詳細は割愛しますが、私たちは

  • 前方引き出しテスト
  • ラックマンテスト
  • ピボットシフトテスト

に代表されるような方法でACL断裂を診断します。

 

例えば、MRIではACLがつながっているように見えても、実は靭帯が伸びきっていて本来の役割を果たすことができなければ、上の検査では異常と判断します。

 

私はよくゴムに例えてお話ししています。伸びきったゴムは本来の弾力性が無くなってしまうのと同じで、伸びた靭帯は本来の役割を果たせません。もしACLがつながっていても、伸びきっていたら場合は脛骨が前に出るのを抑えることができなくなり、切れている時と同様の手術が必要となる時もあります。

 

という訳で、場合によってはACLが切れているかいないかという議論は無意味である。ということを覚えておいてください。

 

 

レントゲンとCTとMRIの違いとは?!整形外科の画像検査を医者が徹底比較!!


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まとめ

さて、今回の相談者であるAさんの場合は結局、どうするべきなのでしょうか。

 

上の内容を踏まえてお伝えすると、

「サポーターをしてバレーボールをしてみて、膝崩れが出るのであれば即手術。」

と私であれば判断します。

 

他のスポーツでもよいとおっしゃっているので、その場合も同様にサポーターをしても膝崩れが出れば手術です。ただ、当然、日常生活でサポーターをしても膝崩れが出たら、スポーツに関わらずに手術だということも付け加えておきます。

 

 

そして、最後に手術を受ける場合はもう1点お話ししておくべき事があります。それは、リハビリについてです。

 

このACL再建術というのは、手術後のリハビリがとても重要です。完治するまでが100%だとすると、手術が50%でその後のリハビリが残りの50%の割合を占めます。期間は最低8~12ヶ月。

 

それくらいリハビリが重要で、リハビリをしっかりしないと、逆に手術前よりも膝の動きが悪くなってしまうことだってあります。それから、せっかく手術してもリハビリをしっかりしないと再断裂をしてしまったり、反対のACLが切れてしまったりしてしまうので、そうならないためにもリハビリの重要性を強調しておきます。

 

 

仕事をしながらのリハビリはとても大変ですが、スポーツ復帰するまでは8~12か月のリハビリを覚悟しましょう。(アスリートは6ヶ月ほどで復帰することが多いですが、スポーツ愛好家の方は焦らずに、これくらいの期間をかけた方が安全です。)

 

 

ここまで、Aさんのお問い合わせに回答する形で話を進めさせて頂きました。このように、皆さんに役立つと思ったときは回答を共有させてもらうこともありますので、質問やお問い合わせはどんどんしてください。(もちろん、前もってAさんには了承を得ています。皆さんのお役に立てるならと快諾して頂きました。)

 

 

それでは、今回はこの辺で失礼します。最後までお読み頂きありがとうございました。

 

 

続きの記事はこちらです

 

▶膝の前十字靭帯断裂からサッカー選手は手術とリハビリで完治するのか?医者が詳しく解説

 

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プロフィール

2017-04-08_151306 はじめまして、スポドクKです。私はプロサッカー選手を目指していましたが怪我で諦めました。その後、スポーツドクターを志し、現在はプロ選手からスポーツ愛好家の方々の怪我を治すのはもちろん、彼らの能力が最大限に発揮されるようにサポートしています。私自身がプロ選手を目指していましたし、現在まで多くのプロ選手をサポートしてきたので、スポーツドクターの視点から選手がステップアップするためのヒントをお伝えすることができます。ですから、怪我をしている時はもちろんのこと、怪我をしていなくても私が伝えられることは沢山あるのです。そして、私はアドバイスをする時は、現役時代だけではなくその人の人生全体を見た時にどうするべきかという視点を大切にしています。壁にぶつかったり、行き詰ったりしていて、何かヒントが欲しい時は気軽にお問い合わせ下さい。そうすることできっと前に進めるはずです。 ⇒詳しくはこちら

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