膝の前十字靭帯断裂からサッカー選手は手術とリハビリで完治するのか?医者が詳しく解説

10.282015

この記事は7分で読めます

こんにちは、かじです。

 

今回は前十字靭帯断裂の治療についてお話しします。特にサッカーやバスケットボール、ハンドボールの選手にとっては手術は避けられない怪我ですので、ぜひこの記事を参考にして少しでも早い復帰を目指して頂ければと思います。

 

それでは、この記事を読んでいるあなたの能力が最大限に発揮され、所属するチームに貢献できるように祈りながら進めていきます。

 

参考記事
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膝の前十字靭帯を断裂したサッカー選手

ある真夏の水曜日、今日は病院で3件の手術をする予定になっています。1つ目の手術が終わって昼食を食べる為に食堂に向かっていると急にスマホが鳴り響きました。

 

着信を見ると、私がサポートしている大学の学生トレーナーから。たいてい彼から電話がある時は選手がケガをした時です。

 

 

「また誰かケガしちゃったかな。」

「そういえば、昨日から夏休みで練習は午前中だって言ってたな。」

 

そんな事を考えながら電話に出ると、学生トレーナーがかなり焦ってこう言いました。「Tが後ろからタックルされて膝を痛がってます!脱臼したって言ってます!!!どうしたらいいでしょうか????」

 

参考記事
膝前十字靭帯損傷の原因と症状とは?医者が靭帯の構造を詳しく解説

 

膝の前十字靭帯断裂の症状とは

 

 

彼は今年から学生トレーナーを始めたばかりで、小さな怪我でも慌ててしまうところがあります。しかし、彼が言うように膝の脱臼だったら一刻も早く病院に行って整復する必要があります。これは本当に1分1秒を争います。

 

当然、私はあと2件手術があるので駆けつける事はできません。学生トレーナーから状況を聞いて、いくつか簡単な質問に答えてもらって、脱臼ではないだろうという結論になりました。

 

とはいえ、彼に質問する前から私は十中八九、脱臼はしていないと確信していました。なぜなら、膝はそんなに簡単には脱臼しないからです。交通事故ならまだしも、スポーツで膝の脱臼なんて聞いた事がありません。

 

 

だから、私は慌てている学生トレーナーを横目にいたって冷静でした。こういう時は経験上、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)損傷であることが圧倒的に多いのです。

 

そして、前十字靭帯損傷であれば、一般的なケガの応急処置をして翌日にでも病院に来てもらえば問題ありません。

 

参考記事
▶足首捻挫の痛みや腫れへの応急処置とは?医者がRICE処置を分かりやすく解説!

 

 

 

膝の前十字靭帯とは

ここで前十字靭帯を簡単に説明しておきましょう。詳しくは以前に記事に書いているのでそちらを参考にして下さい。

 

前十字靭帯とは、膝の中にある2つの靭帯のうちの1つです。すねの骨(脛骨:けいこつ)が前に動きすぎない様にするのが役割です。

 

 

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

 

 

ですから、この靭帯が切れると脛骨が前に動きすぎて、亜脱臼してしまう事もあります。(※亜脱臼とは、関節が脱臼しかかって元も戻る事。)怪我をしたT君が膝を脱臼したと感じたのはその為です。

 

参考記事
膝前十字靭帯損傷の原因と症状とは?医者が靭帯の構造を詳しく解説

 

 

 

膝の前十字靭帯が断裂するとどうなる?

膝が脱臼した感じがある場合は、ほとんどの場合は靭帯が切れています。サッカー選手が前十字靭帯を断裂したら、手術になる事が多いので、切れているか切れていないかの判断はとても重要です。

 

最終的な判断はドクターがしますが、その前に靭帯断裂を疑って病院に行かなくてはなりません。では、どのような時に前十字靭帯断裂を疑うのでしょうか?

 

 

ここでは、その一般的な症状をまとめておきましょう。

  • 膝がめちゃくちゃ腫れる
  • 歩くのがつらい
  • 動かすと膝がずれる感じがする

 

これが典型的な症状ですが、普通はこんな風になったら病院に行きたくなると思います。

 

 

そうです。前十字靭帯を断裂したら、「これはちょっとやばいな。病院に行っておこう。」と思うはずなのです。

 

ですから、そんな場合は迷わずに病院に行って、ある精密検査をしてもらって下さい。

 

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とにかくこの検査だけはやっておこう!

さて、病院に行ったらこの検査だけは絶対にやる必要があります。その検査とは、MRIです。

 

何回もケガをした事のある選手なら知っていると思いますが、病院に行くとまずはレントゲンを撮る事が多いですしかし、レントゲンには骨しか映らないので、靭帯断裂は診断する事ができません。

 

 

そんな時は、MRIを撮ればかなりの確率で靭帯断裂の有無が分かります。(※ただし、100%ではありませんのでご理解ください。)

 

 

実は、前十字靭帯断裂は検査をしなくてもドクターが膝をある方向に動かせば70-90%くらいは分かります。(※前方引き出しやラックマンテストと呼ばれます。)

 

しかし、そうするためには膝を動かしても痛くないという条件があります。ケガをしてすぐの場合は動かすとめちゃくちゃ痛いので、ドクターは膝を動かしません。その代わりにMRIを撮影して前十字靭帯断裂を調べるのです。

 

 

ちなみに、ケガから数ヶ月経過して膝の痛みがなくなった方では、ドクターが膝を触ればほぼ前十字靭帯断裂をしているのが分かります。

 

参考記事
レントゲンとCTとMRIの違いとは?!整形外科の画像検査を医者が徹底比較!!

 

 

膝の前十字靭帯の手術とは

T君にはその後、私の病院に来てもらって診察しました。サッカー部の部室にあった松葉杖をついて診察室に入ってきたT君の膝はパンパンに腫れて、少しでも動かすと痛がります。

 

 

すぐにMRIを撮れる様に調整しました。30分くらいかけてMRIを撮影し、その画像を確認すると、思った通り前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)が断裂していました。(※前十字靭帯はACLと略られますので、これからはACLと書きます。)

 

T君は不安そうに質問します。「これって・・・手術しないと治りませんか?」私は正直に答えるしかありません。「そうだな、サッカー選手だったら手術する人が多いかな。特に高いレベルを目指す人だったらなおさら。」

 

 

T君は大学2年生で、チームは毎年全国大会に出場するような強豪校。その中で今年からフォワードのレギュラーに定着しつつある選手でした。監督の期待も大きく、時期としてはまさにこれから全国大会が始まるところ。

 

 

できれば手術しないで大会に出たいんです!!何とかなりませんか?

 

参考記事
膝の前十字靭帯損傷で手術するべきか迷っている方へ

 

 

 

手術が正解とは限らない?!

Jリーガーの平均引退年齢は25~26歳。仮に彼がプロになるとしても、残された現役生活は決して長くありません。

 

特に学生の場合は時間が限られていて、その中で一瞬でもケガで無駄な時間を過ごしたくない、という彼の気持ちは痛いほど分かります。私も現役時代は多くの時間をリハビリに費やしてきました。

 

 

だから、何とかプレーできるのであれば、手術はしないで早く復帰する方向で考えたいのですが、怪我の種類によってはそうはいかない事もあります。その例の1つがこのACL断裂です。

 

実はこのケガはスポーツ選手以外の方にはあまり手術をしません。なぜなら、日常生活レベルでは困らない事が多いからです。

 

 

しかも、スポーツの種類によっては、手術をしないで競技に復帰しても問題ない事さえあります。しかし、サッカー選手がこのケガをした場合、私は手術をお勧めしています。なぜサッカーの場合は手術が必要なのか。その理由をこれからお話ししていきたいと思います。

 

参考記事
膝の前十字靭帯損傷で手術するべきか迷っている方へ

 

 

 

膝の前十字靭帯の働きとは

ACLは脛骨(けいこつ:すねの骨)が前に動き過ぎるのを抑えているという事は既にお話ししました。

 

 

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

前十字靭帯が脛骨が前に動きすぎるのを止めている模型 前十字靭帯が断裂するとこれ以上前に出て亜脱臼してしまう

 

 

つまり、膝が動きすぎない様に安定させているのです。そして、断裂をするとこの働きが無くなるわけですから、膝は不安定になってしまいます。多少不安定になってもスポーツはできると思いますか?

 

確かに陸上などは手術をしなくても競技を続けている人もいます。では、サッカーの場合は膝が不安定になると何が困るのでしょうか。

 

参考記事
膝前十字靭帯損傷の原因と症状とは?医者が靭帯の構造を詳しく解説

 

 

 

サッカー選手は前十字靭帯を断裂したらなぜ困る?

サッカー選手がACL断裂をした場合、2つの事が問題になります。それは、

  1. パフォーマンスが上がらない
  2. 将来的に膝が壊れやすくなり、日常生活に困る

の2つです。

 

 

「1、パフォーマンスが上がらない」に関して、ACL断裂をするとやりにくくなる動きがあって、それが、

  • カッティング動作(切り返し動作)
  • ストップ、ターン動作

です。

 

つまり、左右前後にステップをすると膝がガクッと外れる様な感覚になるので思い切り踏み込めなくなります。

 

陸上などでは直線的に走ればいい競技が多いので問題ならない事もありますが、サッカー、バスケ、ハンドボールなどでは、ステップ動作ができないとプレーが成立しません。

 

 

さらにサッカーの場合は、インサイドキックやインステップキックで膝から下を強く振るので、膝が不安定だと致命的です。

 

 

 

そして、「2、将来的に膝が壊れやすくなり、日常生活に困る」に関して、膝が不安定になってガクッと外れる様な感覚の時には、亜脱臼していてこれが膝の軟骨にとても悪いのです。(※亜脱臼とは、脱臼しかかって元に戻る事。)

 

詳しくは以前お話ししていますが、これによって軟骨が傷つき、日常生活でも膝が痛くなってしまいます。

 

 

現役選手はサッカーを辞めた後の事なんてどうだっていいから、早く練習に復帰させろよ!と思うかもしれません。

 

しかし、引退後に膝がめちゃくちゃ痛くなって、「こんなはずじゃなかった・・・」と話している選手をたくさん見てきているので、私としては無視できません。そんな状況を考慮した結果、ACL断裂をしたサッカー選手には手術をお勧めしています。

 

参考記事
膝の前十字靭帯損傷で手術するべきか迷っている方へ

 

 

 

膝の前十字靭帯のリハビリ期間はどのくらい?

ACL断裂に対する手術をした後にはリハビリが待っています。特にこの手術は術後のリハビリが大切で、それができないのならやらない方がマシとさえ言われています。サッカー選手が試合に復帰できるのは、術後6~8ヶ月と言われています。

 

それより早く復帰するとまたACLを断裂する確率が明らかに高い、という報告が世界中でされています。

 

 

この再断裂を防ぐ事はドクターとしてもかなり大きなテーマです。なぜなら、そうなるともう一回手術が必要なわけで、復帰まではまた半年待たなくてはならないからです。

 

 

細かい話をすると、手術の方法には何種類かあります。しかし、今のところは手術方法によって復帰の時期は変わらない、という結論に世界中がなっています。

 

 

ですから、ACL断裂すると大まかに半年で練習に参加して、8ヶ月で試合復帰。そう考えていてください。

 

参考記事
スポーツリハビリをするトレーナーの病院での仕事内容と資格と年収を解説

まとめ

ここまでお話ししてきたように、サッカー選手がACL断裂をするとそのほとんどが手術をします。

 

確かに元日本代表レベルの選手でも、現役時代にACL断裂の手術をしなかった例はあります。(※彼の場合は、現役の終盤に差し掛かっていたという理由もあり、一般的ではないかもしれませんが。)

 

 

しかし、手術をしないという選択をした場合でもACLが断裂している状態で復帰をしてみたけど、やっぱりパフォーマンスが上がってこなかったので、その後に手術をする事にした。なんてことが多いのが現状です。

 

そして、そうなってしまうとさっさと手術した方が結局近道だったし、無理にプレーした時期に軟骨も傷つけてしまっていたし、という状況になり、いい事はありません。

 

 

ですから、サッカー選手がACL断裂をしたら、

  1. パフォーマンスが上がらない
  2. 将来的に膝が壊れやすくなり、日常生活に困る

という事を考慮して手術を勧める場合が多いです。

 

 

 

さて、今回はサッカー選手のACL断裂についてお話ししました。

 

このブログのテーマとは少しずれるかもしれませんが、実は選手の家族でACL断裂をしている方も意外と多く、その相談に乗る事もよくあります。そこで、次回はスポーツをしていない方や楽しむレベルでスポーツをされている方がACL断裂をしてしまった時の考え方をお話ししようと思います。

 

 

それでは今回はこの辺で失礼します。ありがとうございました。

 

 

 

 

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プロフィール

はじめまして、かじです。私はアスリートを目指していましたが怪我で諦めました。その後、スポーツドクターを志し、現在はアスリートからスポーツ愛好家の方々の怪我を治すのはもちろん、彼らの能力が最大限に発揮されるようにサポートしています。私自身がアスリートを目指していましたし、現在まで多くのプロ選手をサポートしてきたので、スポーツドクターの視点から選手がステップアップするためのヒントをお伝えすることができます。ですから、怪我をしている時はもちろんのこと、怪我をしていなくても私が伝えられることは沢山あるのです。そして、私はアドバイスをする時は、現役時代だけではなくその人の人生全体を見た時にどうするべきかという視点を大切にしています。壁にぶつかったり、行き詰ったりしていて、何かヒントが欲しい時は気軽にお問い合わせ下さい。そうすることできっと前に進めるはずです。 ⇒詳しくはこちら

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